- 私は生まれつき視覚に障がいがあり、今は全盲です。
- 皆さんの周囲には目が見えない方はいらっしゃいますか?日本には、およそ32万人(厚生労働省 2022年)の視覚障がい者がいるといわれていますが、私もその一人です。
そんな私は、ブラインドサッカーと呼ばれる視覚障がい者5人制サッカーというパラスポーツの選手でもあります。2020東京パラリンピックにも出場し、日々トレーニングに励んでいます。
小さなころからサッカーをやったり見たりするのが好きで、小さなころは日本で開幕したばかりのJリーグの試合をラジオで聞いたり、日本代表戦をテレビで見たりすることが好きでした。校庭や近所の公園で壁に向かって一人でボールを蹴って遊ぶこともありました。
社会人として会社で働くことにも慣れてきた2009年頃に「少し体を動かしたいなぁ」と思い知人に相談したところ、その知人が最近ブラインドサッカーを始めたという話になり私も勢いで体験してみることにしました。これが私とブラインドサッカーの最初の出会いです。
その冬に東京でブラインドサッカーのアジア選手権が開催されました。正直想像していた以上のスピードで走り回る選手たちに衝撃を受けたことを覚えています。コートという限られた環境とはいえ、こんなに自由に動き回れることに衝撃を受けもっと本気でサッカーをやってみたいという思いが強くなり、翌年から本格的に競技を始めました。そして、2012年国際親善試合で日本代表としてデビューすることとなりました。
- 競技活動と両立し、会社員として働くということ。
- 競技を始めたのが社会人になってからなので、ずっと、選手活動と両立して会社員をしていることになりますね。
私はもともと大学で情報工学を学んでおり、新卒で就職したのは都内の大手印刷会社のシステム部門。社内セキュリティの運用・管理や社内ITサポートデスクの仕事をしていました。ですが、代表でのトレーニング日数や遠征の回数などが増えてきたときに、競技との両立が難しくなってきました。それがちょうど2020年の東京パラの前だったので、このタイミングで転職したいという思いが強くなり、ご縁があってトーコンに転職することになりました。
とはいえトーコンは「人材業界」や「広告業界」の会社、前職とはまったく違う分野です。果たして自分に務まるのかと不安もありました。面接で会社を訪問した際に、オフィスに通され、当時はコロナ前ということで多くの社員がフロアにおり、その働いている様子が漏れ聞こえてきたんです。驚いたのは、笑い声や挨拶などが何度も聞こえて、明るく活発な社員さんが多いのかなと。いい雰囲気だなと感じたのを覚えています。正直にここで何が自分に出来るだろうかと打ち明けたところ、『何が出来るかはお互い可能性は無限大、一緒にすり合わせていこう』と言ってもらえました。その後も、業務と競技の両立について話し合いをしていきながら、今に至ります。
- まさか自分が、大勢の前で話す仕事をするなんて!
- 今私は、広報担当としてホームページの更新や、セミナー・研修での講師も担当しています。例えば、ホームページのお知らせは私が日々更新を行っています。また、採用時における「無意識バイアス」がもたらす影響について、またブラインドサッカーのエッセンスを活かし社内コミュニケーションの在り方について、など多様なテーマでオンラインセミナーの講師や進行役を担当していたりします。他にも、トーコンに興味を持ってくれた学生の皆さんに向け、会社説明会なども行っています。
実は、人と話すこと自体は好きなのですが、人前で話をする、人に何かを伝える、自分の気持ちを表に出して表現するといったことはとても苦手意識が強かったんです。ただ、前職でコンピュータに向かってもくもくと作業をする中で、もっと人と関わる仕事をしてみたいという気持ちがあったのも事実です。当時はどのような仕事がしたいかというところまでは具体化できておらず、なんとなく人と関わりたいと感じていた程度でした。
今トーコンで人前で話す、人に何かを伝える、多くの人たちと関わるという仕事をしている中で、当時やりたかったことはこういう事なのかもしれないと感じている自分がいます。
- 人と関わることで、可能性が広がっていく。
- 今このように社内外で関わる人を増やしていくきっかけになったのは、上司のアドバイスでした。『実は気付いていないだけでいろんな人との出会いを楽しめるんじゃない?そもそも旅行が好きだし、おしゃべりしているときもすごく楽しそうだよ』って言われて。せっかくそう言ってもらえるなら、やるだけやってみようと勇気を出してみたんです。
まだ伝える技術として自分には工夫やスキルアップが必要だと感じることも多くあります。
ですが、研修などで最初は静かだった会場が、徐々に盛り上がって参加している方たちが自然と打ち解けて声に熱がこもっていく変化を感じ取れたり、セミナーの感想を読んでいて「ためになった」「ヒントを得られた」等の嬉しい言葉をもらえたりすると、頑張って良かったと本当に感じます。2024年日本経済新聞さんに取材もいただきました。競技と仕事を両立するアスリートということで、トーコンの認知度アップにも貢献できたかなと思い、嬉しかったです。
競技も仕事も両立させるのは本当に大変なんですけど、すごく楽しいです。仕事の内容を広げていくのは、アスリートとして成長することにプラスになっていると感じています。メリハリはアスリートにとっても重要なことで、いろんな人と出会えるという仕事の刺激が、メンタル面などの内部的な成長につながっています。これまでの選択は、正しかったと思います。
今後のキャリア
正直、10年後など先の人生を考えたときに、どのような自分でありたいかという部分については明確になっているとは言い切れないのが、正直なところです。この先いつまでアスリートとしての人生を継続できるかはわかりません。ただ、前職での経験という意味でIT関連の知識を生かした仕事がしたいという気持ちはまだ強く残っているので、WEB関連の知識もより増やしたいとも思います。そして今トーコンで研修やセミナー、自社の採用という部分に関わっている中でより多くの人たちと接点を持つということにすごく楽しさを感じ、ワクワクしています。そのため「話す・伝える」分野でもよりプロフェッショナルを目指すというのも面白いと思っています。